「アイツが心配か?」

 

 

 

  
    プチ

 

 

 

  
    「ねーねー、今日ヒマ?」
 
    「うん。」
 
 
勿論ヒマだったので即答すると、どうやら合コンの数あわせで来て欲しいとの事。
あまり気は乗らなかったが辻利の抹茶クッキーに釣られてついついOKしてしまった。
 
 
    「行くだけだよー?」
 
    「もちもちvメインはあたし等の彼氏ゲッチューだから♪」

  
こちらは四人、向こうも四人。
途中で抜けることを前提に一緒に行くことになった。
 

 

 

一方こちらは放送室。
イスにもたれ掛かりギィギィ音を立て、ぼぅっとしている柚木をみて、音無は呆れたようにため息を付いた。
 
 
    「アンタさぁ・・・用事無いなら帰れば?」
 
    「いーじゃん。ここだって用事無いんだし。」
 
 
放課後ともなれば放送室に連絡を頼む人数も殆ど無くなる。
格好の寛ぎの場になってしまうのもしょうがない事だが。
 
ドアを叩く音が聞こえ、ざくろが入ってきた。プリントを渡すと「急ぎらしいですよ。」と急用性を伝えた。
 
 
    「職員会議召集の連絡・・・と。」
 
 
慣れた手つきで機材に電源を入れ、ジングルをならし原稿を読み上げる。

 
    「なんでお前が持ってきたの?」
 
    「ローカ歩ってたら先生に渡されたんです。」
 
    「ふぅん。」
 
    「先輩こそ、ここで何してんですか。」
 
    「マッタリ。」
 
 
二度繰り返して放送を入れ、機材の電源を落として終了。
相変わらず誰もが聞きほれるような声である。
 
 
    「そういや最近女の子が襲われる事件多いらしいな。」
 
    「そうなんですか?」
 
    「うん。アタシのクラスでも何人か遭ったみたいよ。
     何でもカップルや集団で居るとイチャモン付けてくるらしいけど。」

 
    「犯られるならまだしも、殴られたり蹴られたりの方らしいし。」
 
    「ま、どっちも嫌だけどねぇ。」
 
    「へぇ・・・そんなのがあるんですか。」
 
    「アンタ後姿はオンナノコなんだから注意したら(笑)?」
 
    「そんときは叩き殺しますよ。じゃ、失礼します。」

 
    いや、見えないべ学ラン着てるんだし・・・」

 

 

 
時刻は四時。
一行は黄昏時の中、本日の相手を公園で待ちつつ談笑をしていた。
 
  
    「よぅよぅねーちゃん達、今暇かい?」

    「俺等と一緒に楽しいことしねぇ?」
 
 
うわぁ・・・
こんな誘い方があったんだなぁ、としみじみしてしまう位古い言い回しで近づいてきたのは
御世辞にもハンサム、否普通の顔立ち・・・とは言えない黒ブチ眼鏡を掛けた男三人組。
 
 
    「あたしたち待ち合わせしてるんで。」
 
    「遠慮しとくであります。」
 
 
丁重に断ると、さも予定通りかのように男たちはニヤつきながら顔を見合わせると、
背の一番高いリーダー格の男がズイと目の前に歩み出て、こういった。
 
 
    「クソ女子高生に拒否権なんかねぇんだよ。大人しく付き合えってんだよ。」
 
    「はぁ?!何言ってんのよこのブ男・・・
キャァ!
 
 
講義した女子になんの躊躇いも無く平手打ちを食らわせた。
セーラー服の胸倉を掴みあげ、醜悪な顔で言い放った。
  
 
    「言葉遣いも悪い・・・最近の女は最悪だな。」
 
    「これは体に覚えさせないとなぁ。」

 

 
プチ。

 

 
頭の中で何かが、漫画の古典的な表現であるが、切れた。
 
 
    「・・・その手、離せよ・・・」
 
    「チビ助は黙ってな。」
 
   
「チビってゆーなぁ!!」
 
 
怒りの声と共に掴んでいる両腕を勢い良く蹴り上げた。
間一髪手を離していたから折れはしなかったがじぃんと痺れが残る。
 
開放された女子は素早く自分より頭一つ背の低いの後ろに隠れるように回った。
 
 
    「(ボソ)皆は早く救護団の人呼んで来て欲しいのだ。」
 
    「(ボソ)え?でもは・・・?」
 
    「いーから!!」
 
    「何をゴチャゴチャ言ってんだよ!」
 
 
掴みかかろうとする男たちの腕を、は右足一本で蹴り捌く。
それが合図になって友人たちは急いで公園の外へと逃げていく。
 
 
    「このアマぁ・・・」
  
    「ただで済むと思うなよ、チビ。」
  
  
凄みを効かせているつもりだろうが、険しい表情のの怒気に押されて、ほんの数ミリだが一歩あとずさった。
 
 
    「アタシはね・・・力で女の子をどうにかしようって人が・・・」

 

 
   
「いっちばん許せないのだ!!」

 

 

 

 
    「・・・ぬむら、犬村ぁ!!」
 
 
大通りまで出ると、恒例(?)ざくろvs玄安を一通り終えた集団が歩いていた。
 
 
    「ん?なんだよ。」
 

 
クラスメイトが息を切らせてこちらに寄ってくるのを不思議に思いながら尋ねる。
  
  
    「さっき変な男たちに襲われ、て・・・」
 
 
ざくろは『柚木先輩が言ってたやつか』と思案をめぐらせる。
 
 
    「が一人で公園に足止めしてるの!」
 
    「早く行ってあげて!」

 
    「!」
 
    が!?」
 
 
返答もせずそのまま走り出す。
 
初めて会ったとき、非力なはオタクにあっさり拘束されていた。
そんな彼女が複数の男相手に無事で居るわけが無い。嫌な考えが頭をよぎる。
横から玄安がその表情を察して声を掛ける。
 
 
    「アイツが心配か?」
 
    「当たり前だろ。」
 
    力ないから・・・」
 
 
ニヤリと玄安とマシンは顔を見合わせると、苦笑した。
  
 
    「俺も心配だぜ。」
 
    「ああ。」
 
 
意味有り気に言葉を切り、ざくろとRにやれやれといった仕草を見せた。

 
    「・・・・・・やり過ぎてやいないかって、な。」
 
   
「「はぁ?」」
 
 
 
ともかく、公園へ急がねば。

 

 

 
ところが入ったとたん言葉を失うことになろうとは思っても居なかった。

 

 
既に二人の男は地面に伏してうめき声を上げ、残る男もそこら中痣だらけになって、
息も荒く、気迫だけで立っているように見えた。しかし手元には小さなナイフが握られている。
対峙するはというと、頬と左手の甲に血と切り傷が付いている程度で目立ったダメージは見受けられない。
 
 
    「このぉ、死ねや!!」
 
    「つぁッ!」
 
 
閃かせたナイフが一直線にの顔面中心に向かって伸びる。
しかしそれは当たることなく宙に銀色の弧を描いて持ち主の手から遠ざかっていった。
インラインスケートを履いたの容赦ない蹴りが手に当たったのだ。
 
 
    「刃物なんて持ち出すなっつーのぉ!怪我したらどうするのだ!」
 
 
否、そういう問題じゃないだろうと傍観者四人は心で突っ込んだ。
 
 
    「何気にフルパワーなのだ。へぃカモン♪
 
 
顔は笑って楽しげな口調であるが、その目は笑っていない。
 
 
    「来ないならこっちから行っちゃうぞー?」
 
    「くっ・・・そぉおおお!」
 
 
諦めたのかキれたのか、猛然と突っ込んでくる。勢い任せのタックルをかまそうというのだろうか。
はというと、男をギリギリの所まで引き寄せ、膝の上に勢い良く足をかけると、次の瞬間
鮮やかな膝蹴りが男の顎下へと決まった。
 
 
    「ヒュウ♪やるねぇ。」
 
    「し、シャイニングウィザード・・・」
 
    「お前等の言ってたことって、こういう事か・・・?」
 
    「そーゆー事。」
 
 
軽々と着地し、さほど無い服の乱れを直して落ち着くと、こちらに気付き、大きく手を振った。
 
 
    「やーほぅー♪遅いぞきゅーごだんー!」
 
    「お前強すぎ。俺らの出番返せよー。」
 
    「ちなうって、この人たちが案外弱かったのー。」
 
 
ほえほえと手を横に振って彼等の元へ駆けて来た。
仮にそうだとしても、あの蹴りを目の当たりにしたら『彼女が弱くは無い』ということがアッサリ
証明できそうなものだが。
 
 
    「手ェ切ってるぞ。」
 
    「かすり傷と思います。」
 
    「いや、ちゃんとこれ貼っとけよ。」
 
 
軽く頬に付いた血を拭きながら絆創膏を手渡していると、心配していた女子たちがマシンを吹っ飛ばして
を取り囲んだ。
 
 
    「大丈夫!?」
 
    「てか超かっこよかったよ〜v」
 
    「なんて言うの?こう、パパーンって!」
 
    「手、痛かったよね〜?」
 
    「ちょっと剣、男なんだから手助けしてあげなさいよね。」
 
    「つかえないんだからぁ。」
 
    「「「ね〜。」」」
 

    「喧しィ!」
 
    「にゃはは;」
 
 
『女子高生 三人寄れば 姦しい』当に、そんな感じ。
後日分かったことだが、彼女たちを襲った男達は、尽く女性に振られ、それが最も盛んだった高校時代を
髣髴とさせる女子高校生を見ると、誰彼構わず暴力を振るっていたという。
人間、顔だけじゃなく心も荒んじゃ駄目ですね。

 

 
    「そういえば結局合コン相手こなかったね?」
 
    「・・・あたしたちが公園出てった時にすれ違って逃げてったわよ。」
 
    「そんなヘタレ達、間違ってもゴメンね。」
 
 

案外逞しい人が好みの様子。
ヘタレと聞いての頭に真っ先に浮かんだのは玲司だったり(失礼)。
  
 
    「こないだはオタクに掴まれてたのに・・・」
  
 
Rとざくろは已然と先ほどまでの光景に納得がいかないようである。
確かに、こうして友人たちと会話している彼女を見る限りただの女子高生にしか見えないのだから。
 
 
    「あぁ・・・はホールド系は弱いんだよ。力ねぇから。」
 
    「ちなみに今年のコイツの握力は左右18Kgしかねえ。」
 
   
ばらすなYo☆
  
    「怒ってんのかハイテンションなのか分かんないぜ。」
  
    「さらに今年のコイツのスリーサイズはー・・・」
 
    「わーわーわーわー!!」
 
 
慌ててマシンの口を塞ごうとするがするりと逃げられてしまう。
にやりと笑うとの頭を抑えつつ一言。
 
 
    「真に残念ながら存じてねぇよ。」
   
    「否、知ってたら本日のDE黄泉の国へズームイン!だったよ。」
 
 
ガチャリと足元のスケートを鳴らす音に少々びくつくマシン。
見ると何気にざくろのすそを握って引っ張ってもらっている姿が何とも笑えるというか、微笑ましいというか。
 
 
ふと思い立ってはざくろにあることを尋ねた。
 
 
    「ざくろ君は・・・喧嘩する女の子はどー思う?」
 
 
彼からの返答はスグには帰ってこなかった。
横でそれを聞いていたマシンと玄安が野次を飛ばす。
 
 
    「はしたない女の子ー!」
 
    「そんなんじゃモテねぇぞ、。」
 
 
一瞬反論を試みようとしたが、ぐっと詰まるモノがあるようです。
 
 
    「う、言い返す言葉もありませんのだ・・・」
 
 
眉間をせばませてうーうーと悩んでいると、ぽんと背中を叩かれた。

 

 
    「可愛ければ何しててもいんじゃねーの?」

 

 
きっと意識して発せられた言葉では無いにせよ、の頬を一瞬で綺麗な桜色に染めるには十分な一言だった。

 

 
    「そぉよ!可愛いもん!」
 
    「可愛くない剣に言われたくないわよ、ねー。」

 
    「だからお前ら喧しって!!」
 
 
そんな友人やマシンの言葉を聴いてか否か、先に出てクルリと回ると子供の様ににかっと笑った。
 
 
    「ありがとうなのだ!ぶいっ☆」
 
 
それが一番、と言わんばかりに友人たちに頭を撫でくりまわされた。
後、終始の機嫌が上々だった事は詳しく述べない。

 

 

 
彼女が己が心に芽生えた感情が何かを自覚するのは、もう少し先のようだが。

 

 

2004 6/27